| 
そのうちに、一度遠くへ去った犬の團塊が、山毛欅の森の端を迂回して、前面の森の頂上へ迫って來た。
 數羽の山鳥が勢ひよく飛び立つと、
 奈奈江の頭の上を越えていった。と、一疋の
 首毛を逆立てた猪が圓々と栗のやうに膨らんで、
 蔓草の上から飛び出て來た。続いて、瀧のやうに
 數十疋の犬の群れが猪の後から流れて來た。
 猪は大草を乗り越え踏み越えしながら、
 道まで出ると一寸停ち止まつて左右を見た。
 その隙に乗じて、數疋の犬が猪の首と股とへ
 飛びついた。が、猪は後足で蹴上げると、
 忽ち犬は、逆さまに高く蹴ね上がって投げ出された。
 猪は再び急速な勢ひで、陽の光とは反對な
 奥の方へ廻らうとした。
 
 |