伊豆の旅(島崎藤村)

茅野といふ山村の入り口で我輩は
三人ばかりの荒くれた女に逢った
「ホウ 半鐘がありますぜ。斯気
なところに旅舎もある--是次に
来る時は是非あの旅舎で泊めて貰
ふんだネ。」とa君は戯れるやうに
言った。この村の出はづれに枯々
とした耕地があって、向ふの方に
屋根の低い小屋が見える。樵夫ら
しい男が通る。我輩の馬車はそれ
から一層深く山の中へ入った。